止まらぬ「巨額流出」、日本の仮想通貨業界は長い停滞に向かうのか?

仮想通貨業界の関係者の間では、深い虚脱感がただよっている。

2018年夏以降、業界の「再浮上」を目指す動きが加速していた矢先に、取引所Zaifから70億円相当の仮想通貨が抜き取られたからだ。

ある取引所の幹部は「Zaifの事案をきっかけに、さらに停滞が続けば、日本は世界から完全に取り残される」と話す。

流出事案に対する、関係者たちの危機感は強い。

日本の「仮想通貨」をめぐる2度の停滞

10年ほどの仮想通貨の短い歴史において、日本の業界は2度の停滞期を経験している。

2013年3月、地中海に浮かぶ小さな島国キプロスで、金融危機が起きた。銀行の預金が封鎖されたのをきっかけに、既存の金融機関から逃避した資金がビットコインに流れ込み、価格が一気に上昇した。

日本で、早い時期からビットコインの取り引きをしていた人たちに話を聞くと、この時期に初めてビットコインを買った人が多い。

しかし、翌2014年2月、東京に拠点を起き、当時は世界最大級の取引量となっていたマウントゴックスが経営破たんし、一度目の停滞期に入った。同社の破たんは、繰り返しハッキングを受け、ビットコインを抜き取られたことが主な要因だった。

停滞に至る流れを、おおざっぱに整理すると次のようになるだろう。

  1. 価格上昇
  2. ハッキング
  3. 停滞

2017年から2018年にかけて、このサイクルは再び繰り返される。

2017年の秋ごろからビットコインをはじめとした主要な仮想通貨の価格が高騰し、日本でも多くの人が仮想通貨の取引にのめりこんだ。スタートアップ企業がひしめいていた仮想通貨業界は、一気に規模を膨張させた。

しかし、2018年1月末、取引所コインチェックがハッキングを受け、580億円相当の仮想通貨が奪われた。

金融庁と業界が取り組んだ「後ろ向き」の作業

金融庁

 

撮影:今村拓馬

以後、金融庁と仮想通貨業界は、半年間にわたって「後ろ向き」の作業を続けてきた。

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金融庁は、取引所に立ち入り検査をし、次々に業務改善命令を出した。取引所各社もセキュリティを強化し、金融機関に準ずる態勢整備を進めてきた。

「後ろ向き」の作業は、金融庁の森信親・前長官が退任し、遠藤俊英・新長官が就任した2018年7月まで続いた。

以後、わずかではあるが、業界には「前向き」な動きが出てきていた。8月には、大手企業による仮想通貨取引所の買収や資本参加の動きが表面化し、業界団体は自主規制ルール案をつくり、立て直しに向けた動きを本格化させようとしていた。

その矢先に起きたのが、今回のテックビューロが運営する取引所Zaifのハッキング事件だ。国内の業界が停滞から抜け出そうともがいていただけに、タイミングとしては、極めて間が悪い。

Zaif

 

 

ある取引所の幹部は、Zaifの事案が明らかになった日本時間の20日シンガポールで仮想通貨とブロックチェーン関連のイベントに参加していた。

この幹部はZaifを話題にする人はいなかった。ハッキングは必ず起きるものだから、それを前提に対策するしかない」と話す。

企業側が対策を講じても、すぐに新しいハッキングの手口は登場する。いつかは自社もハッキングされるという前提で運営するしかない。

問題は「ホットウォレット」の運用方法だ

ホットウォレット

 

Shutterstock

となると、コインチェックZaifのいずれの事案においても指摘されたように、いわゆる「ホットウォレット」の取扱いが問題となる。

コインチェック事件以降、何度も繰り返されてきた説明にはなるが、インターネットに接続した状態で仮想通貨を管理するのがホットウォレットだ。反対に、ネットから切り離す管理方法はコールドウォレットと呼ばれる。

仮想通貨交換業者16社が組織する業界団体である日本仮想通貨交換業協会がまとめた自主ルール案でも、ホットウォレットの取扱いを定めている。具体的には、「オンラインで管理する仮想通貨の上限を設定する」という対策だ。

リアルタイムの取り引きに対応するためには、一定の額をホットウォレットで管理する必要はあるが、額が大きくなれば、当然リスクもふくらんでいく。

業界が定めたルールは現時点で「案」の段階であるため、テックビューロはルール案には拘束されない。だが、70億円という巨額の仮想通貨が抜き取られた以上、社内でどのような基準でホットウォレットが運用されてきたのか、詳細な説明が求められる。

ハッキング前提の運用指針は作れるのか?

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撮影:今村拓馬

取引所のシステムは、ハッキングを前提に設計する必要がある。であれば、取引所の運営が続く以上、ハッキングの被害を利用者に補償しなければならない事案も必ず起きる。

取引所を運営する企業が、利用者に補償する日がいつか来る前提で制度設計するのなら、ホットウォレットで運用する額に応じた、補償の原資を事前に確保しておく必要もあるだろう。

コインチェック事件以後、金融庁に登録済みの仮想通貨交換業者の多くは、「安心・安全」を全面に出した広告・宣伝を展開してきた。テックビューロもその1社だ。

しかし、利用者の視点で見れば、取引所の何が「安全」で、何に「安心」すればいいのかは、今もはっきりしない。

コインチェック事件以降、仮想通貨への期待感も、信頼感もじりじりと下がり続けている。今回のZaifのハッキング事案は、さらなる下降要因になりうる深刻な事態だ。

長い停滞が続くのか、再浮上に向かうのか。日本の仮想通貨業界は今、重大な岐路にある。

 

このようにかなりの岐路に立たされているのは間違いがないですし、これからどのような方向性を辿るのかはかなりの未知数だと思います。

 

仮想通貨の分野では前を走っているはずの日本が、いつの間にか後進国となる可能性が否定できない以上、これからの対応がより重要なものとなるでしょう。

 

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